棚田賛歌

棚田というのは、

一般的に「良いお米がとれる田んぼ」という認識があると思います。

これは正解でもあり、不正解でもあるのですが、

本来の棚田の役割は、「防災機能」にあります。

考えてみるとわかるのですが、

管理することすら不自由な急傾斜に田を作る。

「小作人は大変だな、そんな土地しかもらえなかったんだな」

というのは、非常に浅はかな考えで、

再三このブログで書いている通り、

田んぼは、難透水層がなければ作れません。

棚田の場合は岩盤が難透水層の役割を果たしております。

つまり岩盤むき出しの斜面に、

粘土を運び石垣を築き田を作ったのです。

ものすごい重労働です。

これ、村人が総出で作業したんです。

一人の人間に出来ることではありません。

なぜこのようなことをしたのか?

これ、村を守るためなのです。

棚田は。土石流を止めるのです。

山に囲まれた斜面に挟まれた谷に川が流れています。

いわゆる谷ですが、

谷の許容量を超えた雨水は、

濁流となって河川の曲がっているところを崩します。

崩れた土砂と一緒に土石流となって下流に襲い掛かります。

もしここに棚田があると、

最初の土石流は、一番上の棚田で止まり、

あふれたものが次の棚田に襲い掛かります。

次の棚田もいっぱいになるまで土石流を止め、

次の棚田へと…

こうやって、土石流の勢いをとめるので、

原理的には現代の「砂防ダム」と同じ役割です。

ただ砂防ダムと根本から違うのが、

「棚田は米がとれるから管理する、

管理されているから防災機能を失わない」

という、ものすごい発想で作られていることです。

これ、現代の砂防ダムでは、

管理が行き届かず機能を果たせないものが、

全国に無数にあるのと対照的です。

このところ、

福岡県朝倉市で毎年のように出射流が発生していますが、

朝倉は元々急傾斜の谷地に存在する農村地帯です。

土石流はおそらく昔から発生していたのだと思います。

それを棚田で防いでいたものの、

少子高齢化であり、

過疎地でもあるため棚田の管理が出来なくなり、

棚田の防災機能が失われた結果、水害になっているのだと思います。

こういう例は全国で起きていて、

国土交通省は、棚田の管理に助成をしているようですが、

機械力を受け付けない現状の棚田を管理することなどできません。

誰もやりたがらないでしょう。

現代の技術でやるとしたら、まずドローンで地形を計測しなおして

完全な3Dモデリングを行い、

土石流の発生を予測し、その力の分散と、

農業機械の導入可能な形態の田んぼをデザインし、

維持管理していくというようなアプローチになろうかと思います。

このこと、結構喫緊で、

これから毎年異常な雨が降ると予測されるので、

是非国がきちんとアプローチしてもらいたいものです。