いらない土地を国に返せる?相続土地国庫帰属制度について

「もう売れんから土地を国に引き取ってもらう」

とあるお客様、この方制度の内容をよく知らないまま

国に土地を引き取ってもらえると勘違いしているようです。

マスコミは一般的に、

「相続土地国庫帰属制度が開始され、

国が相続した不要な不動産を引き取るようになります」

という風な報道以外はしないので無理はありません。

しかし、そのような都合の良い話などこの世にあるわけもなく、

きちんと内容を把握していないと大変なことになります。

  • 購入した土地はこの制度の対象外である。

相続した土地以外対象にならないため、

投資目的で購入して売れ残った不動産は対象とはなりません。

つまり、だまされて購入した土地は、相続が発生するまで(本人が亡くなるまで)は、

この制度を利用できないということになります。

  • 贈与や信託も対象にはならない。

この制度を利用できるのは相続のみです。

  • 国の審査に合格した土地のみこの制度を利用できる。
  • 建物がないこと
  • 担保等登記簿の乙区に記載のないこと
  • 他人の利用する土地ではないこと(道、水源地、用悪水路、墓地など)
  • 土壌汚染のないこと
  • 境界が明確であること

この内容、よく考えるとわかるのですが、建物がある場合は解体しなくてはなりません。

担保や抵当は抜かなくてはなりません。

公共の利益のための土地は基本的に対象とはなりません。

土壌汚染は検査が必要です。

境界は測量が必要です。

と、いろいろな費用がかかりますが、ここまでをクリアすればよし、とはなりません。

4.次の事案は事案ごとに検討する。

(1)崖(基本的に崖地は傾斜度によって変わるようです)

(2)残置物がある土地

(基本は樹木などですが放置されたものも該当します)

(3)地中埋設物がある土地

(基本はごみなどですが井戸跡など地中埋設物も該当する場合があります)

(4)公道に接してない土地

(公共道路に接していない土地は対象になりません)

  • 災害の指定がないこと

(ハザードマップなどは問題ない場合もありますが、

林野庁などで災害指定されている場合、基本的に拒否されます)

  • 土地改良区等でないこと

(国が取得後何らかの費用の発生する土地が原則不可)

  • 管理費が発生しないこと

(別荘地等管理費が国が取得後も発生する場合は不可)

ここまででも相当にハードルが高いことがわかると思います。

一般的に数百例に1例の割合でしか合格しないと言われています。

では農地はどうなのかという問題ですが、

この制度自身がどうも農地の流動促進を目的にしている節があるため、

農地はこの制度となじみがよく利用できますが、

申請条件は守られていることが前提となります。

費用については、申請1筆につき14,000円です。

つまり5筆あれば70,000円になります。

審査期間は最短で半年、通常約1年とされております。

もし万が一この高いハードルを越えて、

合格となり制度の利用ができることになった場合、

基本1筆につき20万円を納付するのですが、

土地面積によって納付額が決まっており、

宅地の場合200㎡でおよそ80万円、

100坪ですと120万円程度納付しなくてはなりません。

農地の場合は1000㎡で110万円程度、

森林の場合は1500㎡で30万円程度となっております。

申請書の作成は、なかなか普通の人には無理で、

行政書士等の専門家に任せることになると思います。

この制度は、

合格するしないにかかわらず、申請前の費用だけでも50万円から100万円程度、

(家の解体撤去など場合によっては数百万円)

の費用をかけ申請し、合格するかどうか1年間わからず、

めったに合格しないというのが本当のところだと思います。

合格しなくても行政書士等の専門家の費用は発生しますので、その分も負担になります。

つまり、冒頭の「売れんから国に引き取ってもらう」というお客様、

この方の土地は、投資目的で手に入れた土地なので

国に引き取ってもらうことはできません。

法務省は、「相続した土地を国が引き取る制度がスタートします」と書いてあります。

だから、いらない土地を国に返せると勘違いしても仕方ないのかもしれませんね。

この場合我々不動産業者に任して売るしか手がないのが実情なのです。